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臨床倫理問題に関する対応
診療においては,社会通念では処理できない次のような倫理的課題が発生する場合があります。
- 患者さんの意思と医療従事者の意向が一致しない
- 患者さんが意思決定できない,あるいはできるか疑わしい
- 医療チームのメンバー間で意見が対立する
- 患者さんと医療チームの合意内容が,社会的通念や法律に抵触するおそれがある
当院ではこのような問題が発生した場合,日本医師会「医の倫理の基礎知識 2018年度版」・世界医師会「WMA医の倫理マニュアル」等を参考に臨床倫理委員会が中心となり方針を決定し,次のような対応を行っております。
具体的対応
1 検査・治療を拒否される意思決定可能な患者さんへの対応
検査や治療の必要性と行わない場合の不利益,代替え治療などについて十分な説明をご本人やご家族に行います。
そのうえで同意が得られない場合は,セカンドオピニオンをお勧めしますが,患者さんの自己決定を尊重し,患者さんの望まない検査や治療を拒否することを認めます。ただし,感染症法やその他の法律により検査や治療を拒否することが制限される場合があります。
2 意思決定が困難な患者さんへの対応
認知症や精神疾患などについては,可能な限り本人への説明を行いますが,意思決定が困難と判断した場合や,意識障害などで意思決定ができない場合があります。適切な代理人がいる場合は,代理人の推定意思を尊重し,患者さんにとって最善の診療方針を選択することを基本に同意を得ます。
緊急事態で患者さんが意思決定不能であり,ご家族等にも連絡が取れない場合は,医療者が医療チームの合意のもとに緊急検査や治療を行います。
3 輸血拒否される患者さんへの対応
宗教上の確信により輸血を拒否する場合は,「宗教的輸血拒否患者に係わる対応ガイドライン」に沿って対応します。
意思能力がある成人(18歳以上)の場合は,絶対的無輸血治療*を選択し,輸血以外の治療法で生命保護に努めることを原則としています。
15歳以上18歳未満で医療に関する判断能力がある場合は,親権者と本人ともに輸血を拒否する場合以外は,相対的無輸血**を原則としています。
15歳未満の場合は,相対的無輸血**を原則としています。
- 絶対的無輸血*
患者の意思を尊重し,いかなる場合(死亡のリスクも含む)も輸血をせずに治療します。 - 相対的無輸血**
患者さん及びご家族の意思を尊重し,可能な限り無輸血治療に努めますが,輸血以外に救命手段がないと判断した場合は輸血をします。
4 終末期を迎えた患者さんへの対応
終末期の判定は複数の医療人で検討します。ご本人・ご家族と相談の上,終末期の治療については,医学的な妥当性と適切性を基本に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」などを参考に医療チームで決定します。
積極的安楽死や自殺幇助行為は行いません。
5 蘇生不要(DNAR)について
終末期において,心停止・呼吸停止をきたした場合の心肺蘇生の有効性等について,ご本人とご家族に説明します。事前にDNARの意思表示がある場合,医師は診療録(カルテ)に記載し,関係者に周知します。
6 身体抑制が必要な患者さんへの対応
治療や処置の必要上,やむを得ない場合の身体抑制は,必要性を十分に説明し,同意を得て行います。「身体抑制実施マニュアル」に沿って医療チームで評価し行います。
7 退院拒否や強制退院について
医師が自院における入院治療の継続が医学的に必要でないと判断した場合および他の入院患者への迷惑行為や病院業務への支障をきたす非道徳的行為を行った場合は,入院を伴う診療契約は終了し,説明の上退院していただきます。
8 病名告知に関すること
病名を聞くことは患者さんの「知る権利」ですが,患者さんには「知りたくない権利」もあります。どちらを選択するかは患者さんご自身で決めることができます。
患者さんの意向を尊重した医療を進めるため,通常は病名を告知しますが,「知りたくない」場合には予めお申し出ください。
9 臓器移植への対応
患者さん本人がドナーカードを提示し,臓器提供の意思を表示された場合と死亡後,ご遺族より臓器提供の申し出があった場合は,「臓器提供マニュアル」に従って臓器提供を進めます。
10 生殖医療への対応
現在,当院では体外受精等の生殖医療は行っていませんが,妊娠希望のあるがん患者さんには,抗がん剤治療前などの適切な時期に,カウンセリングのうえで卵巣・卵子・受精卵を凍結できる施設を紹介しています。
また、出生前診断に関する遺伝カウンセリングや出生前診断検査も行っています。
作成日:2023年4月4日