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私たち循環器内科のスタッフは、以上の診療方針に基づき、絶えず医療の質を高め、患者サービスの向上に努め、自分自身で治していくこと(診断と治療方針の自己選択と自己決定)に全面的な支援をいたします。
2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | |
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心臓カテーテル | 1,650 | 1,597 | 1,700 | 1,700 | 1,877 |
PCI | 459 | 433 | 456 | 519 | 456 |
EVT | 107 | 115 | 93 | 158 | 172 |
ABL | 167 | 205 | 230 | 350 | 269 |
デバイス | 142 | 126 | 124 | 146 | 143 |
(PCI:経皮的冠動脈形成術)
(EVT:末梢動脈血管内治療)
(ABL:カテーテルアブレーション)
心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをしており、ポンプのエネルギー源を供給する血管が冠動脈(心臓の筋肉を直接栄養する血管)です。高齢化、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙などが原因で全身の動脈硬化が起こります。動脈硬化により冠動脈が狭くなると、主に労作時に心臓に必要な血流が不足して狭心症を発症します(夜間安静時などに冠動脈のれん縮(けいれん)により狭心症を発症する場合もあります)。また冠動脈の狭窄度がさらに進行したり、冠動脈が突然閉塞したりすると心筋梗塞を発症します。これらは総称して虚血性心疾患と呼ばれています。典型的な症状は前胸部や胸部全体の痛み、締め付け感、圧迫感などです。心筋梗塞は本邦で少なくとも年間25万人の方が発症され、その14%は病院搬送前に心肺停止となり、急性期死亡率は6~7%と非常に高くなっております。心筋梗塞は可能な限り早期に治療を行うことが重要であるため、当院では循環器医が24時間365日常駐し、迅速に診断と治療(心臓カテーテル検査・治療)を行うことができる体制を整えております。
虚血性心疾患の診断には運動負荷心電図検査、心臓CT検査、心筋シンチグラフィーなどを行っております(これらの検査はすべて外来で行うことができます)。冠動脈狭窄の存在が疑われる場合は、入院として冠動脈カテーテル検査を行います。冠動脈カテーテル検査は、カテーテルという細長い管を手首や肘、大腿部の血管から挿入し冠動脈の入口まで進め、造影剤を注入して冠動脈の状態を正確に把握する検査です。また冠動脈に中等度の狭窄を認めた場合には、その病変を治療する必要があるかどうかを判断するために、圧力計のついたガイドワイヤー(プレッシャーワイヤー)を冠動脈内に挿入し冠動脈の内圧を測定する検査(冠内圧測定)を同時に行います。
虚血性心疾患の治療は患者様と病気の状態に応じて、薬による治療、冠動脈カテーテル治療、冠動脈バイパス手術のいずれかを選択します。冠動脈カテーテル治療は、冠動脈の狭窄もしくは閉塞している部分を内側から風船や薬剤溶出性ステント(金網状の金属の筒で、薬を塗ってあるもの)を用いて広げる治療になります。動脈硬化により冠動脈がかなり硬くなって(石灰化が強い)広げることができない場合は、当院では高速回転式カテーテルや、アテローム切除アブレーション式カテーテルという石灰化を砕く装置を積極的に使用しております。また症例によっては、冠動脈狭窄部のプラークを削りとることで狭窄を解除する、方向性冠動脈粥腫切除術(DCA)も行っております。
またバルーンの表面に突起や金属の刃のついたもの、金属ワイヤーのついた特殊なものを使用して、なるべくきれいに血管を拡張する工夫を行っています。薬剤溶出バルーンという薬を塗ったバルーンを使用して冠動脈になるべくステントを入れない治療も行っており、希望される場合には検討させていただきます(厚生労働省の指針もありすべての血管には、適応できません。)。
極端に心臓のポンプの働きが悪い場合には、機械的な補助装置(大動脈バルンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺補助装置(PCPS))を併用することもあります。複雑な病変の治療を行う際には、ハートチーム(循環器内科と心臓血管外科)で協議を行い、最適な治療方法を検討しており、冠動脈バイパス手術が望ましい症例については、当院心臓血管外科にて手術を施行します。
冠動脈治療部長
内藤 洋一郎
下肢末梢動脈疾患とは、動脈硬化により足(下肢)の動脈の内腔が狭窄や閉塞する病気で、以前は下肢閉塞性動脈硬化症とも呼ばれていました。社会の高齢化や、食生活の欧米化に伴う糖尿病や維持透析の増加に伴って、この病気は増加しています。足の血管に動脈硬化を引き起こす危険因子としては糖尿病と喫煙が最も重要です。次いで維持透析などの腎不全、高齢、高コレステロール血症、男性が挙げられます。典型的な症状としては「間欠性跛行」と「重症下肢虚血」があります。
間欠性跛行とはしばらく歩くとふくらはぎ・ふともも・おしりのだるさや痛みから歩けなくなり、休むと治る症状です。重症下肢虚血では、じっとしていても足先が痛い「安静時疼痛」や傷がいつまでたっても治らない「難治性潰瘍」を認めます。最悪の場合には足の切断が必要となることがありますので、早期発見が重要です。また下肢末梢動脈疾患は心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患や脳梗塞・頚動脈狭窄症を合併することが多く、全身の動脈硬化疾患の検索を行います。
症状から下肢末梢動脈疾患が疑われた場合、検査としてまずは「ABI(エービーアイ)」と下肢動脈超音波検査を行います。ABIは腕と足の血圧を同時に測る検査で、0.9以下だと下肢末梢動脈疾患が疑われます。下肢動脈超音波検査は体の表面から超音波をあてることにより、血管の動脈硬化や血流を評価できる検査です。さらに詳細に血管の状態を調べる必要がある場合は造影CTやMRIを行います。
治療法には保存的治療(禁煙・薬物療法・運動療法)と血行再建術(血管内治療、外科手術)があり、治療法は病気の部位や重症度、患者さんの全身状態や希望により選択します。
当院では積極的に血管内治療、いわゆるカテーテル治療を行っています。通常2泊3日もしくは3泊4日で治療を行います。外科手術のように皮膚を切って血管の外側から治療するのではなく、血管の内側に管を入れて血管の内側から治療を行うため、全身麻酔ではなく局所麻酔で行うことができます。治療後数時間で安静は解除となり、創部の問題がなければ翌日には自由に歩くことができ、治療の効果を実感していただけるかと思います。
冠動脈同様、バルーンやステントを使用して治療を行っていきますが、バルーンの表面に突起や金属の刃のついたもの、金属ワイヤーのついた特殊なものを使用したり、薬剤溶出バルーンという薬を塗ったバルーンを使用して治療を行っております。
また高度の石灰を伴った硬い病変に対し、石灰を振動で破砕する道具も適切使用しています。
問題点としては治療部の再狭窄や再閉塞がときにみられ、再治療が必要となる場合があることなどが挙げられます。重症下肢虚血の場合、当院では総合病院の特性を生かして、形成外科・腎臓内科・整形外科・心臓血管外科・麻酔科と連携して集学的な治療を行います。
また下肢動脈以外に鎖骨下動脈や腎動脈に対してもカテーテル治療を行っており、患者さん個々の状態に応じた最適な医療を提供するよう心がけております。また、腎機能の低下している患者様も多いため、腎機能に応じてなるべく造影剤を減らして、造影剤による腎臓機能低下の影響を最低限にしながらの治療も、行っています。
末梢血管・重症下肢虚血治療部長
荒井 靖典
不整脈とは、連続する心拍が不規則であったり、速すぎたり(頻脈)、遅すぎたり(徐脈)、心臓を伝わる電気刺激が通常の伝導経路をとらないことで生じる、心拍リズムの異常です。放置しておいても問題ないものから、日常生活を著しく制限するもの、失神や突然死に至るもの、脳塞栓などの塞栓症をおこしやすくなる不整脈まであります。また同じ不整脈でも患者さんによって、自覚症状が大きく異なることも珍しくありません。患者さんそれぞれの症状や心臓の状態に応じて、お薬による治療や、カテーテルアブレーションによる根治療法、ペースメーカ治療等を提示し、患者さんと一緒になって治療を進めています。
A.経皮的カテーテル心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)
カテーテルアブレーションとは、不整脈を引き起こす異常な心臓内の局所にカテーテルを使用して焼灼を行い正常なリズムを取り戻す方法です。
発作性上室性頻拍、心房頻拍、発作性心房細動、持続性心房細動、心室頻拍に対してカテーテルアブレーションを行っております。
治療にかかる時間は、治療する不整脈や患者さんの状況によって異なり、1時間程度から数時間以上かかるも場合まで様々です。患者さんは、静脈麻酔薬で深く眠ったり、鎮静薬でうとうとした状態でカテーテルアブレーションを行っています。
アブレーション終了後は、カテーテルを抜去し、挿入部位をしばらく手で圧迫して止血が行われます。患者さんは病室に戻った後、挿入部位から出血しないように4~8時間ベッド上で安静にします。
アブレーションには3Dマッピングシステム(CARTO、Ensite)を併用して治療を行っており、より高い手術成功率、安全性の向上、手術時間の短縮、放射線被曝の低減が得られています。
2016年4月からはクライオ(冷凍凝固)アブレーションを導入し、発作性心房細動に対して積極的に使用しております。
不整脈治療部長
森本 芳正
B.デバイス治療:心臓に植え込む器機(デバイス)を用いた治療です。
肺血栓塞栓症は静脈に発生した血栓が遊離し、肺へ血液を送る血管(肺動脈)を詰まらせることで生じます。呼吸困難や胸痛などの症状が出現し、病状が重い場合はショック状態となったり、突然死したりすることもある極めて重大な疾患です。
静脈血栓塞栓症の治療は、基本的に抗凝固薬の投与を行います。患者さんの背景に応じて、お薬を使い分けています。
重篤な病状であれば血栓溶解療法を行ったり、心肺停止に至るようなさらに重篤な病状であれば、経皮的心肺補助装置を用いて救命を図っています。
下大静脈フィルターは、重症肺塞栓症、下大静脈付近に血栓を認める場合、深部静脈血栓症が見つかっても何らかの理由で抗凝固療法を行うことができない場合に使用しています。当科では回収可能な下大静脈フィルターを使用しており、なるべく短期間でフィルターを抜去するよう努めています。
心臓弁膜症の治療は、中等症までであれば薬物治療を行い、経過観察を行いますが、重症になれば手術治療が基本となります。当院では体表面心臓超音波検査、経食道心臓超音波検査や、心臓カテーテル検査などを用いて心臓弁膜症の重症度を評価し、当院の心臓血管外科と手術適応など治方針を決めています。
心不全は、冠動脈疾患、不整脈疾患、弁膜症疾患、高血圧疾患を長期に患ったのち心臓が弱ってしまった状態や、心筋梗塞後に急に心臓が高度に弱っておこる病態です。心不全では全身に十分に血液が送れなくなり、高度に疲れやすくなる、下肢や肺になど全身た水分が貯留し浮腫や呼吸苦をきたします。心不全の原因疾患に対し、上記のように介入できる点は治療を行い、そのうえで、心臓リハビリテーションを行っていき、少しでも筋力を維持しなら、心不全の治療が行えるように調整していきます。
2025年には、慢性心不全患者は120万人を超えるとも予想されています。一方で心不全患者の再入院率は退院後の1年間で20~40%と報告されており、現状の医療体制では対応が困難となる可能性が示唆されています。患者さんにとっても心不全の再増悪を繰り返す事は生活の質を損なうだけでなく、生命予後をも確実に悪化させます。我が国で今必要とされているのは、心不全を入院で一時的に改善させる方法だけでなく、心不全を退院後も継続的に再増悪させない方法なのです。
そこで有効な方法として重要視されているのが、包括的心臓リハビリテーションです。運動療法とともに教育・指導による増悪予防介入を加えた概念で、その効果は多くの臨床研究で十分に証明されています。運動療法は正確な運動能力評価に基づいた有酸素運動・レジスタンストレーニングを指します。一方、増悪予防介入では日常運動・生活動作指導だけでなく、日常の服薬指導や栄養指導、増悪の早期発見・介入などが含まれます。運動療法に加えた多職種による介入が、入院中だけでなく退院後も増悪を防止し、再入院を減少させます。その一例として心筋梗塞後であれば、長期包括的心臓リハビリテーションを行うことで心筋梗塞の再発が28%減少し、3年間の総死亡は56%減少したと報告されています。
当院では心筋梗塞後や慢性心不全、心臓血管外科術後の方を対象として、平成16年から心臓リハビリテーションを行っています。平成26年には広島県内の福山・府中圏域における「広島県心臓いきいきセンター」に指定され、現在8名の心臓リハビリテーション学会指導士のもと、年間約300人の方々に対して心臓リハビリテーションを行っています。医師、看護師のみならず理学療法士、臨床検査技師、薬剤師、管理栄養士などの多職種医療スタッフで、更なる包括的心臓リハビリテーションの実現に取り組んでいます。
また心臓病の患者さんやそのご家族へ向けて、「心臓いきいき教室」を定期的に開催しています。心臓病に関する情報や日常生活での注意点について、医師や多職種医療スタッフで協力し、心臓病を抱える方々に有益な医療情報をお伝えしています。どなたでもご参加できますので、お気軽にお問い合わせください。