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膵がんに対する取り組み(外科)

記事ID:0001233 更新日:2022年2月7日更新 印刷ページ表示

膵がん 

 

  1. 膵臓について

膵臓(すいぞう)はおなかの上の方、胃の背中側にあります。右側が太く、左側に向かって細くなる、長さ15~20cmほど、厚さ2cmほどの左右に細長い臓器です。右側を膵頭部(すいとうぶ)、真ん中を膵体部(すいたいぶ)、左側を膵尾部(すいびぶ)といいます。

膵頭部は十二指腸にくっついています。膵頭部には肝臓で作られた胆汁が流れてくる胆管が入り込みます。

膵尾部の左側には脾臓があり、脾臓のメインの動脈と静脈は膵体部・膵尾部の背中側を走行します。

膵がん

機能:

膵臓には2つの重要な機能があります。

1つは外分泌機能といって、消化液を作る機能です。膵臓で作られる消化液は膵液と呼ばれ、炭水化物・糖質の分解酵素(アミラーゼ、マルターゼ、ラクターゼ)、脂肪の分解酵素(リパーゼ)、たんぱく質の分解酵素(トリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼ)等を含みます。つまり3大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)全ての消化に関わる臓器なのです。外分泌機能が弱まると、消化不良、下痢、体重減少、栄養不良などが起こります。

膵がん グラフ

もう一つは内分泌機能といって、ホルモンを作る機能です。膵臓からは血糖値を下げる働きをするインスリン、血糖値を上げる働きをするグルカゴン、多くのホルモンの分泌を抑制するソマトスタチン、腸からの水分やミネラルの吸収や分泌の調整をするVIP(血管作動性腸管ペプチド)などのホルモンが作られます。内分泌機能が弱まると、体のバランスが崩れます。インスリンの分泌の減少は、糖尿病の発症や悪化などを引き起こします。

採血

  1. 膵臓の腫瘍について

膵臓の腫瘤には、非腫瘍性のものと、腫瘍性のものがあります。

膵臓の非腫瘍性腫瘤には、貯留嚢胞、単純嚢胞、先天性嚢胞、リンパ上皮嚢胞などがあります。非腫瘍性のものは基本的に悪性化しませんので多くは手術の対象となりません。

膵臓の腫瘍は、一般に「膵がん」を指す浸潤性膵管がん(IDCs)のほか、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMNs)、粘液嚢胞腫瘍(MCNs)、神経内分泌腫瘍(NENs)、Solid-Pseudopapillary Neoplasm(SPN)、漿液性腫瘍(SNs)などがあります。

膵がんは悪性ですが、IPMNsには良性の状態である膵管内乳頭粘液性腺腫(IPMA)の状態から、がん化して悪性となった膵管内乳頭粘液性腺がん(IPMC)の状態まで存在します。同様に、MCNsにも良性である粘液嚢胞腺腫(MCA)の状態から、悪性である粘液嚢胞腺がん(MCC)の状態まで存在します。NENsにも悪性度が低い状態から高い状態まで存在します。SPNは悪性の確率が10%ほどで、それほど高くありません。SNsは一般にほとんどが良性です。

そのほかにも、稀な種類の腫瘍が存在します。

形態的には、嚢胞性(袋状の形態)のものと充実性(塊の形態)のものがあります。嚢胞性のものには非腫瘍性の貯留嚢胞、単純嚢胞、先天性嚢胞、リンパ上皮嚢胞や腫瘍性のIPMNs、MCNs、SNsなどが、充実性のものにはIDCs、NENs、SPNなどがありますが、充実性のものが嚢胞状の形態を示したり、嚢胞性のものに充実性の部分が出現したりすることもあります。

次にお示しするような診断法を用いて診断を行います。典型的なものは比較的容易に診断ができますが、診断に難渋するものもあります。

悪性の腫瘍は、切除が可能であれば、切除が有力な治療手段となります。

悪性の状態でなくても、腫瘍の種類や状態、患者さんの状態によっては切除をするべきであることもありますので、専門的な診断が必要です。

  1. 膵腫瘍の診断について

膵腫瘍の診断には、腹部超音波検査(エコー)、単純・造影CT検査、MRI、超音波内視鏡(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)、PET検査、ソマトスタチン受容体シンチなどの検査を組み合わせて行います。悪性を疑うときには、加えて、ERCP時に膵管内にチューブを入れて、膵液を採取し、細胞診を行ったり、EUSで消化管内から超音波で腫瘍を確認して、腫瘍を内視鏡下に針で刺し、組織や細胞を採取するEUS-FNAという方法で組織診断や細胞診を行うこともあります。

膵腫瘍の鑑別診断(どの腫瘍か絞り込み見極める)には、超音波検査に精通した超音波検査士、膵臓を専門とした消化器内科医師、放射線診断医、病理診断を専門とした細胞検査士・病理専門医による十分な評価が必要です。

  1. 膵がんについて

膵がんは、多くが膵液の流れる管である膵管から発生します。一般に膵がんとはこの膵管にできた浸潤性膵管がんのことを指し、膵臓にできる腫瘍性病変の80~90%を占めることから通常型膵がんともいわれています。。

国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計 (https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html<外部リンク> )によると、「2017年の罹患数(かかった人の数)が多い部位」では、男性・女性・全体いずれも6位で、1年間に約41,000人が診断されています。一方で、「2018年の死亡数が多い部位」では、男性の4位・女性の3位・全体の4位で、1年間に約35,400人が亡くなっています。部位別5年相対生存率では、男女ともに最も予後の悪いがんとなっています。 

膵がんは手術でがんを切除するのが唯一の根治の手段ですが、診断時に手術できる患者さんは25~30%程度で、診断される多くの膵がん(70~75%)は、手術で根治を目指した切除ができないほど進行した状態です。

最近では、診断時に根治を目指した切除ができない状態でも、がん薬物治療(抗がん剤治療)や放射線治療を駆使して、根治を目指した切除ができる状態にした後に切除をすることもあります。

膵がんは進行の早いがんで、短期間に亡くなる方が多いですが、逆にその時期を治療によって乗り切れば、生存者となる可能性が高くなります。

 

  1. 膵がんになりやすい人について

膵がんの発症リスクは次のような場合に上がるとされています。

 

・近親者に膵がん患者さんがいる:1.70~2.41倍

・特定の原因遺伝子により家系内で膵がんが多発する疾患群(遺伝性膵がん症候群):4.1~132倍

・糖尿病:1.94倍

・慢性膵炎:4年以内は14.6倍、5年以降は4.8倍

・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN):年率1.1~2.5%

・20代で肥満の目安である肥満指数(BMI)30以上:3.5倍

・喫煙で:1.68倍

・大量飲酒:1.22倍

肥満

  1. 膵がんの症状について

膵がん患者さんの医療機関受診のきっかけは、次のようになっています。

受診のきっかけ

症状としては、次のようなものがあります。

腹部違和感/腹痛/背部痛

膵液の流れる膵管が詰まることによる膵炎等の症状や、腫瘍が周りの臓器(胃・十二指腸・大腸・胆管)などに広がって、それらの臓器が詰まってしまうことによって腹部の違和感や痛みがでることがあります。膵炎や腫瘍が背中側の臓器や神経に広がることで背中の痛み等が出ることもあります。

黄疸

腫瘍が胆管や胆管が流れ込む十二指腸に広がって、肝臓から胆管を通って十二指腸へ流れ出る胆汁の流れが途中で妨げられると、皮膚が黄色くなる、尿が黄ばんで濃くなる、白目が黄色くなる、皮膚にかゆみが出るといった黄疸の症状がでることがあります。

体重減少

腫瘍が周りの臓器(胃・十二指腸・大腸)などに広がって、それらの臓器が詰まってしまうことによって食事が食べられなったり、膵臓の外分泌機能が落ちて、消化吸収が悪くなったりして体重が減少することがあります。

糖尿病

膵臓の内分泌機能が落ちて、インスリンの分泌量が低下し、糖尿病になったり、もともと糖尿病であった方は、糖尿病が悪化したりすることがあります。

 

  1. 膵がんの検査について

 

日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編 「膵癌診療ガイドライン2019年版」(金原出版)では、膵がん診断の流れとして、次のように示されています。

フロー

当院では、いずれの検査も専門の臨床検査技師、専門医が責任をもって行います。各分野の専門家(臨床検査技師、内科・外科・放射線診断科・腫瘍内科・病理診断科の専門医)がカンファレンスを行い、診断と進行度診断の進め方、決定を行っています。

 

・問診や触診による臨床症状や危険因子の確認:内科、外科の肝胆膵領域の専門医

・血液検査(黄疸や糖尿病の検査、膵臓からでる酵素の検査、腫瘍マーカーの検査):内科、外科の肝胆膵領域の専門医

・腹部超音波検査(エコー):超音波検査士

・造影CT:放射線診断専門医

・MRI:放射線診断専門医

・超音波内視鏡(EUS):消化器内視鏡学会専門医

・内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP):消化器内視鏡学会専門医

・PET検査:放射線診断専門医

・審査腹腔鏡:肝胆膵外科高度技能医

・EUS-FNA(EUSで腫瘍を確認し、針で刺して組織や細胞を採取):消化器内視鏡学会専門医

・ERCP下膵液細胞診(ERCPで膵管内にチューブを入れて細胞を採取):消化器内視鏡学会専門医

・細胞・組織診断:認定病理検査技師、細胞検査士、病理専門医

(各診療科の専門分野、資格は医師一覧表でご覧いただけます。)

各学会の専門医については、以下のURLでご確認頂けます。

  1. 膵がんの進行度について

先の検査に基づいて、膵がんの進行度合いを評価します。

進行度合いの評価は、のちの治療方針の決定に直結しますので、検査の項でも述べました専門家(臨床検査技師、内科・外科・放射線診断科・腫瘍内科・病理診断科の専門医)がカンファレンスで最終決定します。

膵がんの進行度は、日本膵臓学会編「膵癌取扱い規約」に基づいて次の進行分類および、切除可能性分類を行います。

・膵癌取扱い規約の「進行度(Stage)分類」

膵局所進展度を表すT分類、リンパ節転移を表すN分類、遠隔転移を表すM分類をそれぞれ評価し、それらを組み合わせて進行度分類(ステージ:Stage)分類します。

進行度(Stage)分類はPDFをご覧ください。

膵がん 進行度(Stage)分類 [PDFファイル/443KB]

 

  1. 膵がんの治療について

当院での基本的な切除可能性分類別の治療法

※患者さんの年齢や健康状態、生活環境によっては、安全性と有効性を考慮して、他の治療方法をお勧めする場合もあります。

 

切除可能性分類

治療法

切除可能

術前補助化学療法(塩酸ゲムシタビン+TS1)→手術→術後補助化学療法(TS1)

切除可能境界

術前化学療法(塩酸ゲムシタビン+ナブパクリタキセル)あるいは術前化学放射線療法(TS1+放射線療法)→手術→術後補助化学療法(TS1)

切除不能

(局所進行)

化学療法(塩酸ゲムシタビン+ナブパクリタキセル)

※腫瘍の縮小等によって切除可能となった場合には

→術前化学放射線療法(TS1+放射線療法)→手術→術後補助化学療法(TS1)

切除不能

(遠隔転移)

化学療法

※当院では基本的に切除は行いませんが、遠隔転移の消失等によって切除可能となった場合には、切除も検討します。

当院では、肝胆膵領域の各分野の専門家(臨床検査技師、内科・外科・放射線診断科・腫瘍内科・病理診断科の専門医)が集まって診断や治療方針を検討する肝胆膵カンファレンス と 肝胆膵領域に関わらず多分野の医師が集まってがんの治療方針を決めるカンファレンス(Cancer Board)で治療方針を決め、化学療法は、化学療法に精通した内科あるいは腫瘍内科専門医が、放射線療法は放射線治療専門医が、手術は肝胆膵外科高度技能専門医・指導医がそれぞれ綿密に連携を取って行っています。

 

10.膵がんの手術について

膵臓のどの位置に腫瘍があって、どのように広がっているかによって術式は

膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除、膵全摘のいずれかになります。

主に腫瘍が膵頭部にある場合と主に腫瘍が膵体尾部にある場合の手術について、詳細はPDFをご覧ください。

膵がん 手術 [PDFファイル/514KB]

11.当院での治療成績について

当院では、2020年12月までに膵がんの患者さん229人に対して切除を行ってきました。治療開始時の切除可能性分類別は切除可能:200人、切除可能境界:16人、切除不能局所進行:13人でした。術式は膵頭十二指腸切除:152例、膵体尾部切除:72例、膵全摘:5例でした。

切除可能

これらの切除を行った患者さんの切除後の全生存期間は次のグラフのとおり、中央値32.3か月、5年生存率は37.9%です。

術前補助化学療法や術後補助化学療法が標準でなかった時代も含みますので、今後はもう少し改善すると思われます。​

  生存率

12.当院での取り組みについて

・進行の早い膵がん治療の基本スタンス

膵がんは、病状の進行の早いがんですので、「膵癌診療ガイドライン」で、はっきりとした根拠に基づいた治療の方針が決まっている状態に対しては、各診療科で密な連携をとって、なるべく早い時期から治療が開始できるように取り組んでいます。

 

・切除可能境界膵がんに対する治療

はっきりとした根拠に基づいた治療方針が決まっていない切除可能境界膵がんに対しては、2通りの治療を行っています。

 

1つ目の選択肢は、当院が参加している多施設共同試験である、「Borderline Resectable 膵癌を対象とした術前ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法と術前S-1併用放射線療法のランダム化比較試験」(https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000030821)について理解され、参加に同意をいただいた患者さんには、この試験に従って、術前ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法という2つの抗がん剤を組み合わせた術前治療後の切除、あるいは術前S-1併用放射線療法というS-1という抗がん剤に放射線治療を組み合わせた術前治療後の切除を行い、その後、半年間の抗がん剤治療(S-1)を行うものです。

 

もう1つの選択肢は、従来からわれわれの取り組んできた術前S-1併用画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy: IGRT)後に切除を行うというものです。

放射線装置

画像上は切除可能境界膵がんと判断されても、腫瘍マーカーが異常に高かったりして、上記の治療があまり勧められないとカンファレンスで判断した場合には、まず全身化学療法を行うことをお勧めする場合もあります。

 

当院では、これまでに切除可能境界膵がんの患者さん16人に対してこうした治療を行ってきました。

これらの患者さんの治療開始後の無再発生存期間(再発なく生きておられる期間)、全生存期間(再発の有無にかかわらず生きておられる期間)は、切除可能膵がんにも劣らない平均39.1か月、58.6か月です。5年生存率は44.1%です。

生存率2

生存率3

・切除不能局所進行膵がんに対する治療

最近では、切除不能局所進行膵がんの患者さんの中には、抗がん剤や放射線治療を行った後、切除ができるようになる(コンバージョン手術といいます)患者さんもおられます。

当院では、これまでに13人の患者さんに対してコンバージョン手術を行っています。これらの患者さんの治療開始後の無再発生存期間(再発なく生きておられる期間)、全生存期間(再発の有無にかかわらず生きておられる期間)は、こちらも切除可能膵がんに劣らない平均46.4か月、64.9か月です。5年生存率は43.9%です。

生存率4

生存率5

・膵がんの肺転移に対する治療

膵がんが遠隔転移再発した場合、遠隔転移を切除しても非常に高率で再発を来すため、一般的に手術の適応は無く抗がん剤治療が標準治療となります。

しかしながら、肺転移の場合には、転移の状態によっては切除によって長期の予後が得られる可能性があり、当院でもこれまで10人の患者さんに切除を行ってきました。

これらの患者さんの肺転移切除後の全生存期間を下のグラフに示します。再発した患者さんは多いものの、比較的長期の予後が得られることが多いです。

生存率6

・膵がんに対する低侵襲手術

当院には日本内視鏡外科学会の認定した内視鏡外科技術認定医が4名在籍し、比較的厳しい施設基準をクリアして、「腹腔鏡下膵腫瘍摘出術」「腹腔鏡下膵体尾部腫瘍切除術」「腹腔鏡下膵頭部腫瘍切除術」を保険診療で行うことができる施設に認定されています。

腹腔鏡下手術が勧められる状態(腫瘍の広がり具合や、患者さんの状態、手術の難易度等を考慮します)の患者さんには腹腔鏡下手術も提案しています。

オペ画像

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診療受付時間
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患者さん及びご家族の皆さまへのお願い
※当院は原則予約制です。初診はかかりつけ医で予約を取り、紹介状をお持ちください。
外来診療日
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